物流業界がAIを導入する理由とは?最適化されたモデルや企業事例を紹介

物流業界には長時間労働と労働条件の劣化、再配達・受け取り拒否問題、EC市場の拡大、ドライバーの高齢化、積載率の低下といった課題があります。このような問題に対して、AIの導入が解決策となる場合があります。物流予測や在庫管理といった特定の作業のほかにも、サプライチェーン全体に対してメリットとなるでしょう。

今回は物流業界が抱える問題点とAIを導入することによる効果について解説します。具体的なAI導入の事例についても紹介するので、ぜひ最後までご覧ください。

目次

物流業界が抱える問題点

物流業界は労働環境や労働者層の高齢化の問題のほかにも、物流業界を取り巻く近年のトレンドの変化が大きな課題となっています。ここからは業界が抱える問題点について詳しく解説します。

長時間労働と労働条件の劣化

物流業界は「長時間労働」「過酷な現場」といったイメージが蔓延っています。厚生労働省の調査によると大型トラックドライバー、中小型トラックドライバーの労働時間は、どちらも全産業平均労働時間よりも2割程度超過していることがわかります。

引用:国土交通省「トラック運送事業の働き方をめぐる現状

また配送物の積み込みや運搬は体力を使う仕事です。このような現場の劣悪な現状や物流業界のマイナスイメージがドライバーが不足している直接的な要因になっています。

再配達・受け取り拒否問題

ドライバーの労働時間や労働量を増やす要因になっているとして、物流業界の大きな問題となっているのが再配達・受け取り拒否問題です。ドライバーが配達したとしても受け取りが完了しなければ運送業務は完了しません。

宅配ボックスがある物件は良いのですが、手渡しでの配達が不可欠な場合、不在や居留守などによって届先人に郵送物が届かないとドライバーは再配達を行います。国土交通省が発表した再配達率のサンプル調査では、2022年4月時点で11.7%の郵送物が再配達の対象となっています。

EC市場の拡大

インターネットやスマートフォンの普及によって、EC市場は近年加速度的に成長しています。国土交通省が発表した宅配便取扱個数は、令和3年度において49億5323万個を記録しています。この数字は前年度比約2.4%増加です。今後も宅配便の件数が増えることが予想されており、物流業界の問題の一つになっています。

ドライバーの高齢化

日本で少子高齢化が問題視されて久しいですが、物流業界でも同様にドライバーの高齢化が問題視されています。

引用:国土交通省「トラック運送事業の働き方をめぐる現状

国土交通省が公表した資料によると、全産業に比べて物流業界のほうが44歳から54歳までの年齢層が多い傾向があります。一方で15歳から29歳までの若年層の割合は低いのが現状です。

積載率の低下

EC市場の拡大、配達物の小口化によって積載率の低下が問題となっています。積載率とはトラックの許容積載量に対する実際の積載量の割合です。輸送効率を示す指標として重要視されています。

配達物が小口化してもドライバーの配送件数には上限があります。結果的に積載率が低下してしまうというわけです。配送効率を上げるためにはドライバーの配達件数を増やすことが求められるため、労働時間の長期化につながる問題とされています。

物流業界の問題を解決するAIの活用方法

物流業界の問題を解決するためにAIを導入するという方法があります。AIを導入することで物流予測の正確化、在庫管理の最適化、検品作業の効率化が可能です。ここからはそれぞれの活用方法について詳しく解説していきます。

物流予測の正確化

AIに物流量や時間帯別再配達率といったデータを学習させることで、正確な物流予測を行うことが可能です。例えば交通情報や配達のピークタイムをドライバーに事前告知することで、労働時間の短縮化や再配達率の低下が期待できるでしょう。AIの機械学習と解析処理の技術進歩、データの蓄積によってAIの物流予測の精度は、今後さらに高まることが予想されています。

在庫管理、検品作業の最適化

物流業界の作業には配達のほかにも配送物の管理や保管があります。倉庫などの保管場所では検品作業が必要です。今までは人間が手作業で一つ一つ配送物の確認をしていましたが、AIの画像認識技術を用いれば配送物のバーコードを瞬時に読み込むことができます。

モーダルシフトの導入

AIを導入する方法としてモーダルシフトが挙げられます。モーダルシフトとは普段トラックなど陸路での運送を基本とする配送を、小型船舶や鉄道などといった他の輸送手段を織り交ぜた配達にシフトチェンジする方法のことです。AIの機械学習とビックデータの分析技術を用いて配送物の全体把握と最適な輸送手段の判断が可能になれば、最高効率のモーダルシフトが達成されます。

物流業界でAIを活用した企業の具体例

様々な問題を抱える物流業界で、AIの導入が解決の糸口となった実例がいくつかあります。ここからは物流業界でAIを活用した企業の具体例について紹介していきます。

【具体例1】株式会社ハンナ

株式会社ハンナは奈良県を拠点に陸路での物流を行う企業です。AIを活用した運行管理システムを作成することで、輸送時間の効率化を図り、ドライバーの負担軽減に成功しています。

今回のAIシステムでは事前に作成された運行計画とトラックにつけられたGPSデータ、郵送物の量や輸送距離といったデータをもとに、最適な運送ルートを作成することが可能です。ドライバーの業務を平準化することで労働時間の削減し、ドライバーが配送に専念できる環境を実現しています。

参考:関西経済連合会「トラックの位置情報等をクラウド上で一括管理することでドライバーの稼働状況を可視化し、効率的な運行管理を実現

【具体例2】日本通運株式会社

日本通運株式会社はAIと読み取り型ロボットを活用した「DX Suite」というサービスを導入して、シフト管理や運行記録の登録時間の省略に成功しています。全国を拠点として物流業界を支える日本通運では、シフト管理、運行記録の登録をドライバーの日報とExcel入力によって行い、1拠点当たり毎月平均450件の入力作業を要していました。

「DX Suite」ではAIの画像認識、データ分析技術を使うことで、シフト帳票の自動読み取りと正確なデータ化を実現しています。これにより年間6万時間弱の帳票入力時間の削減に成功しています。

参考:DX Suite「年間で6万時間弱の事務作業を削減!日本通運が全国93拠点にDX Suite を浸透させたウラ側に迫る

【具体例3】株式会社NTTロジスコ

株式会社NTTロジスコではAIの画像認識技術を活用したレンタル機器の自動検品システムを導入しています。レンタル機器の再生品を使用する場合、クリーニングや動作試験、再生品の検品、セット化を行っています。

その検品作業をAIが代行することで、精密機器の不良品の発見を人間の目視点検以上の精度で行うことが可能です。このAIの導入により、作業員1人当たり処理台数の生産性が60%向上し、検品ミスも0%を達成しています。

参考:NTTロジスコ「AI画像認識技術を用いた自動検品システム」の導入について~生産性60%向上と検品ミス0%を実現~

【具体例4】ヤマト運輸株式会社

ヤマト運輸株式会社ではAIのデータ分析、機械予測によって翌日の倉庫スタッフの内訳を決定しています。通常、配送物の量やドライバーの到着時間などによって倉庫スタッフの人数が各営業所に振り分けられます。その人員配置は現場スタッフの経験や勘に頼るものでした。

翌日配送物、倉庫スタッフのシフト状況、過去の経験則といったビッグデータを総合的に判断してAIが翌日の倉庫スタッフの人員配置、内訳の決定を行うことで、従業員への過度な負担の軽減と人件費の効率化に成功しています。

参考:ヤマト運輸「ビッグデータ・AIを活用した配送業務量予測および適正配車のシステム導入についてー アルフレッサとヤマト運輸によるヘルスケア商品の共同配送スキーム構築の第一弾 ー

【具体例5】三井物産グローバルロジスティクス株式会社

三井物産グローバルロジスティクス株式会社では自動投函機の不適切な処理に対して、AIの機械学習を活用することでトラブルの発生を抑制することに成功しています。1時間に約4,000箱を自動投函機で処理しているため、稀に納品書のずれや文字化けなどにより配送先の取り間違いが起きることがあります。

そこで株式会社シーエーシーと共同開発した異常検知AIを導入して、トラブルの抑制や再発防止に努めています。現在は横浜、神戸の倉庫にてAIシステムが導入されており、教師データの蓄積が進められています。(2022年9月時点)

参考:PR Times「CAC、自動封函時の異常を検知するAIアプリケーションを三井物産グローバルロジスティクス向けに開発・納入

AI物流まとめ

物流業界はEC市場の拡大、ドライバーの高齢化、積載率の低下によって労働環境の悪化、ドライバー不足といった問題を抱えています。このような問題に対してAIの導入が解決の糸口となる場合もあるでしょう。

実際に物流業界にAIを導入した企業の中には、物流予測や在庫管理の最適化、サプライチェーン全体の効率化を達成している事例もあります。思うようにドライバーが集まらない企業、従業員の高齢化を問題視している企業、コストカットや配送の効率化に関心がある企業の経営者、管理職の方はぜひ一度AIの導入を検討してみてください。

この記事を書いた人

AIに関する情報を分かりやすく発信していきます。G検定取得。日々、最新のテクノロジーへのキャッチアップやデータサイエンスの学習に奮闘中。

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