スマート農業とは?農業×AIのメリットとデメリット、企業の導入事例について解説

農業にICT等の技術を組み合わせて、超省力化や高品質生産を可能にする「スマート農業」に注目が集まっています。特にAIを導入することで収穫物の安定生産と正確なデータによる技術の伝播が可能です。一方で初期投資額が高いため個人経営体の農家は導入に踏み込めないなどというデメリットがあります。

今回はスマート農業の説明とAIを使うメリットとデメリット、実際の企業の導入事例について解説します。AIの導入をお考えの農業従事者はぜひ最後までご覧ください。

目次

スマート農業とは

スマート農業とは従来の農業と最新のICT技術を組み合わせた新しい農業のことです。効率的な生産、安定した品質の向上などを目的としています。ここからはスマート農業の目的とその種類について解説していきます。

スマート農業の目的

従来の農業は長年にわたる農家の勘や経験に頼る部分が多く、知識の偏りが生産量や品質に影響していました。スマート農業では人間が行っていた作業をロボット等が代行して負担したり、具体的な数値データを集計・分析して技術の伝播・継承につなげたりすることができます。生産量の安定化や品質の向上が可能になれば、結果として食料自給率の上昇につながるでしょう。

スマート農業の種類

スマート農業とは最新鋭のIT技術と農業を組み合わせて、超省力化や高品質生産などを可能にする新しい農業の形のことを言います。つまり「農業×ロボット技術」「農業×ビッグデータ」「農業×AI」「農業×IoT」など、農業に様々な最新技術を組み合わせることで実現することができるのです。

データ分析と予測によって農業経験がない農家でも農作物を生産することができる「農業×AI」は、中でも注目が集まっている分野です。農業従事者の人材不足、高齢化の問題解決に期待が寄せられています。

農業にAIを導入するメリット

農業をAIに導入するメリットとして主に以下の4つが挙げられます。

  • 収穫物の拡大化・効率化
  • 高齢化、人材不足の問題を解消できる
  • ノウハウをビッグデータとして分析、継承できる
  • 有機栽培、減農薬栽培に踏み出せる

ここからはそれぞれの内容について詳しく解説していきます。

収穫物の拡大化・効率化

農業にAIを導入することで収穫物の拡大化や効率化が期待できます。農業は日照時間や気温、湿度、土壌の状態などあらゆる自然条件が収穫物の量や品質に影響を及ぼします。

しかしこれらの情報は熟練者であってもすべてを把握することはできません。一方でAIを使えば過去のデータからの予測や複数のデータを組み合わせた分析を行うことができます。精度が高まれば農地面積あたりの収穫物の量を最大化することも可能でしょう。

高齢化、人材不足の問題を解消できる

日本の農業は高齢化とそれに伴う人材不足の問題が深刻化しています。農林水産省の発表によると令和4年度の基幹的農業従事者のうち約70.1%が65歳以上の高齢者です。

出典:農林水産省「農業労働力に関する統計」より作成

また同発表によると基幹的農業従事者は年々減少の一途をたどっていることがわかります。平成27年は175.7万人いた農業従事者が令和4年には122.6万人です。過去7年間のうちに約30.2%もの人材が農業から離れてしまっています。

AIを導入することで農作業の自動化、省力化をすることができるため、農業に必要な人数を減らすことができます。日本の農業における人材不足の問題解決につながる可能性は高いです。

ノウハウをビッグデータとして分析、継承できる

従来の農業は長年にわたる農家の勘や経験が頼りとなっていて、技術の正確な継承が困難でした。一方でAIを使って農業を行うことで、ノウハウをデータとして落とし込むことができるため、誰でも農作業の知識を継承することができます。また毎年の生産物のデータを分析して、さらなる生産性や安定性の実現を達成することができるでしょう。

有機栽培、減農薬栽培に踏み出せる

AIを導入することで農家が有機栽培、減農薬栽培に踏み出すハードルが下がることが期待されています。有機栽培、減農薬栽培は環境保全や食品衛生、健康問題の観点から近年ヨーロッパを中心に話題となっている栽培方法です。従来は農薬によって収穫物の安定化を図っていましたが、その役割をAIにゆだねることで農家は農薬の量を減らした高品質の商品を作ることができます。

農業にAIを導入するデメリット

農業をAIに導入するデメリットとして主に以下の4つが挙げられます。

  • 導入時の初期投資額が大きい
  • 未曽有の事態によって混乱が生じる可能性がある
  • 農家への新たな作業負担が導入のネックに
  • 農業×AIの技術者、管理者の育成が不十分

ここからはそれぞれの内容について詳しく解説していきます。

導入時の初期投資額が大きい

農業の分野で活用できるAIは初期投資額が大きくなることがデメリットに挙げられます。農家の大多数は個人経営者であり、一時的であっても大きな出費は事業の存続に関わることです。そのため数十万円から数百万円以上が必要になるAIの導入に踏み込めないのが事実です。

未曽有の事態によって混乱が生じる可能性がある

スマート農業が注目されて「農業×AI」のサービスや製品も充実してきています。しかしその一方で、地域性や気候の変化といった要因によるデータのばらつきが農家に混乱を与える可能性もあります。例えば過去に事例がないほど気温が急上昇した場合、AIは過去の教師データのみを学習しているため、未曽有の事態に対処できない可能性もあるでしょう。

農家への新たな作業負担が導入のネックに

農家は農作業という日常業務を抱えています。収穫のシーズンは特に時間的拘束が大きいです。そのような中、農家は普段の業務に加えてAIやロボットの操作、管理業務を行うことになります。新しい作業の負担がAI導入のネックになる可能性があるでしょう。

農業×AIの技術者、管理者の育成が不十分

農業にAIを導入したロボットや仕組みは日々進化しています。一方でAIを動かす技術者や農家に説明する管理者の育成が不十分であるという点がデメリットです。

実際に収穫量を大きくするような栽培方法をAIが実践できるとしても、その使い方を作業員が知らなければ、AIの能力は発揮されることはありません。AIの活用方法を十分に理解したスタッフの育成がAI導入の糸口となる可能性があります。

農業×AIの事例3選

すでに多くの農業×AIのサービスや製品が農家の負担軽減、収穫物の効率化、人材不足の解消に役立っています。ここからは具体的な導入の事例について紹介していきます。

【事例1】コニカミノルタ株式会社

コニカミノルタ株式会社では酒米である山田錦の栽培にAIを活用しています。空撮した画像の分析によって山田錦の育成状況をAIが把握することで、肥料の効果を数値的に見える化することに成功しています。

引用:関西経済連合会「リモートセンシングにより空撮画像を解析し、圃場全体の生育状態を可視化

農作物の育成状況を客観的な指標で管理、分析することで、良質な山田錦を酒蔵へ安定して供給することが可能です。

参考:コニカミノルタ「山田錦栽培におけるスマート農業の共同試験実施について

【事例2】株式会社クボタ

株式会社クボタではスマートフォンや農業機材のセンサーから稼働情報を集めて、農作業の見える化を行っています。育成や収穫に必要な作業の効率化、コストの削減、収穫物の品質向上が目的です。

引用:関西経済連合会「農作業の進捗状況をリアルタイムで見える化し、効率的な生産を支援する

データに基づいたPDCA型農業を目指しており、クボタが行っている実証実験では、生産効率が15%上昇して品質の向上も見られたとしています。

参考:Kubota Press「AIとロボット技術によるスマート化でハウス栽培は新たなステージへ

【事例3】ボッシュ

ドイツのボッシュが開発した植物の病害予測AI「Plantect(プランテクト)」は、効率的なハウス栽培に貢献しています。温度や湿度、二酸化炭素排出量、日照条件などをセンサーで読み取ることで、農家が直接ハウスに行かなくても農作物の健やかな育成が可能です。

検出したデータは数値化して手元のスマートフォーンやパソコンから閲覧でき、次期の栽培改善に役立てることができます。また実際に病害の感染リスクを92%の精度で予測することができ、収穫量の拡大が期待できます。

参考:ボッシュ「AI 病害予測機能を搭載病害予測機能で病害の発生を減らす。モニタリングで環境もしっかり確認。プランテクト

AI農業まとめ

「スマート農業」とは農業に最新技術を組み合わせて、超省力化や高品質生産を可能にする栽培方法です。特に農業にAIを導入することで収穫物の安定生産と正確なデータによる技術の伝播が可能となります。一方で初期投資額が高いこと、AIを扱う技術者や管理者の育成不足といったことがデメリットです。

「農業×AI」の具体的な導入事例として空撮画像からの育成状況確認、農作業のクラウド一元管理、センサーによるデータ分析があります。これらは日本の農業が抱える人材不足、生産効率の鈍化を改善させる可能性を秘めています。効率的な栽培に関心がある方、新しい農業の仕組みに直接関与したい方は、ぜひ一度AIの導入を検討してみてはいかがでしょうか。

この記事を書いた人

AIに関する情報を分かりやすく発信していきます。G検定取得。日々、最新のテクノロジーへのキャッチアップやデータサイエンスの学習に奮闘中。

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