AI技術の進歩は目覚ましく、製造ラインの完全自動化、効率的な工場管理や人的配置を実践する企業も現れています。一方で製造業は依然として少子高齢化による人材不足、ヒューマンエラーのリスク、従業員の安全性の問題など多くの課題を抱えている業界です。AIの導入によるメリットは生産性の向上だけでなく製品の均一化の達成など様々です。
今回はAIを導入した企業の具体例を紹介します。AIを導入する製造業の今後についても紹介しますので、ぜひ最後までご覧ください。
製造業でAIを導入するメリット
製造業は他の業態、業種に比べてもAIの導入が全体的に遅れています。一方で実際にAIの導入に踏み切った企業では様々なメリットが報告されています。ここからは具体的なメリットについて紹介していきます。
工場や現場での人材不足が解消される
AIを導入することで効率的な工場の稼働が可能になり、人材不足の問題が解消されます。少子高齢化の影響は製造業でも顕著です。
2002年から2021年にかけて、34歳以下の若年就業者が減少している一方で65歳以上の高齢就業者は増加しています。今後もこのトレンドはますます加速することが懸念されています。AIによる業務の自動化やシフトの効率化を推し進めることで、労働力不足の問題の解消という大きなメリットを享受できるでしょう。
製造コストを削減して生産性が高められる
AIを活用することでヒューマンエラーによる時間的ロス、コストロスの発生を抑制し、効率的な製造ラインを作ることができます。また人的ミスは発生要因や条件が複雑多岐にわたるのに対して、AIによるエラーは早期予測または原因解明が容易にできます。発生した問題にフォーカスして改良を加えることで、製造コストを抑えてさらなる生産性の向上が期待できるでしょう。
安全性と品質の均一化が期待できる
AIによって業務が自動化されることで従業員の安全性が確保されます。例えば製品を切断加工する現場では、刃物付近での作業はAIを備えたロボットに任せて、人材はマシン管理に充てることで安全性を担保できます。またAIと製造ロボットをリンクさせることで不良品の発生や不純物の混入を防ぐことができ、製品の均一化が達成されるでしょう。
製造業でAIを活用する方法と具体例
製造業でAIを導入する方法として作業の自動化、不良品の選定、需要予測、予知保全、サプライチェーン全体の効率化が挙げられます。ここからは実際にAIを導入した企業の具体例を紹介していきます。
【具体例1】住友ベークライト株式会社
住友ベークライト株式会社では日本電気株式会社と共同開発したAIを導入することで、生産工程の自動制御システムを実現しました。生産ラインにソフトウェアプラットフォーム「Edgecross」を活用することで、センサーからの情報をAIが収集、分析して次の生産ラインの自律制御システムに活かします。これにより工場全体の生産性を20%以上向上させることに成功しています。
参考:NEC「住友ベークライト、NECとの共創。AI、IoT活用で、生産効率20%向上」
【具体例2】株式会社デンソーエスアイ
株式会社デンソーエスアイは自動車部品の生産、物流を行う企業です。以前までのシステムでは配送する商品の検品を人間が一つ一つ手作業で行っていたため、多くの時間と人件費が掛かっていました。
そこでセンサーに反応する「RFIDタグ」を導入して、無線で半径5m以内にある梱包物の検品を瞬時に可能にする仕組みを作り上げています。これにより在庫の棚卸にかかる検品時間を96%削減し、在庫の棚卸精度を20%高めることに成功しています。
参考:株式会社デンソーエスアイ「【事例】RFIDを活用した空箱自動仕分けシステム」
【具体例3】日本製鉄株式会社
日本製鉄株式会社では生産工程の現場にAIを導入して製品の品質向上を達成しています。生産したコイルを箱詰めするときに緩衝材のずれや脱落が起こり、コイルの欠陥が問題になっていました。
そこで画像データをAIによって学習させることで、様々なシチュエーションでクレーンの制御ができる仕組みを整えています。これにより検出率80%、過検出1%以下の成績を出し、コイルの品質向上に成功しています。
参考:NEC「鉄鋼生産現場にAI(ディープラーニング)を導入製品の品質向上を実現する」
【具体例4】リオンドールコーポレーション
リオンドールコーポレーションは福島県を中心に展開するスーパーマーケットです。商品のロスを最小限に抑えるためにAIを使った需要予測とその結果に基づく自動発注システムを導入しています。
気象条件やイベント行事、顧客データなどの様々な情報を総合的に判断して最適な商品発注を行うことが可能です。これにより商品のロスの削減と欠品の抑止による売り上げ損失の回避、人材不足の解消に貢献しています。
参考:流通ニュース「NEC/リオン・ドールに「AI需要予測型自動発注」ロス金額最大40%削減」
【具体例5】石田精工株式会社
石田精工株式会社は日本とインドネシアに工場をもつ製造業大手の企業です。国際的に拠点を持つ製造業の問題点として生産工程の現場での情報共有が難しいことがあります。そこでAIによる全工場の生産ラインの一元管理と数値的把握を行うことで、サプライチェーン全体の効率化、業務の遠隔操作化を実現しています。
参考:関西DX推進プラットフォーム事業「管理しきれていなかった生産工程を“見える化”し、生産性を大幅に向上【石田精工株式会社】」
製造業に活用できるAIの今後について
現在、製造業に活用できるAIの研究開発が世界中で進められています。今後はAIの予測精度が高まることで対応可能な作業領域が拡大したり、ロボット技術との融合が進むことで複雑な作業も人間からAIにとって代わられる可能性が高いでしょう。ここからはAIの未来と製造業の今後について解説していきます。
予測抽出モデルの精度が上がる
現在のAI技術では十分に対応できない製造業務であっても、AIの経験の蓄積があれば解決できる問題もあります。そもそもAIは性質上、既存のデータのインストールがないと高い精度の予測ができません。
例えば正確な売上予測にはイベント時の商品不足の実績値などのデータが必要です。一つの企業では収集できない大量の情報もビッグデータとして業界内で共有することで、高度な予測が抽出できるAIモデルが誕生するでしょう。
ロボット技術との融合が進む
AIとロボット技術との融合が進められることで、工場の自動化や完全無人化を達成することができます。現在製造工場にロボットを導入している企業は多いですが、その操作や指示は人間が行っています。しかしその業務をAIが代わりに行うことで、工場の最適な管理、製造ラインの効率的な稼働を達成できるという未来はそう遠くはないでしょう。
製造業AIまとめ
製造業は少子高齢化による人材不足、ヒューマンエラーのリスク、従業員の安全性の問題など多くの課題を抱えている業界です。AIの導入によるメリットは生産性の向上だけでなく製品の均一化の達成、人材不足の解消などが挙げられます。
業界内には実際にAIを導入して作業の自動化、不良品の検出確率の向上、需要予測の精度の向上、予知保全、サプライチェーン全体の効率化を達成する企業も現れています。製造業に活用できるAIは今後も大きく進歩することが予想されており、教師データの蓄積やロボット技術との融合によって活用方法の幅が広がっていく事でしょう。生産効率の向上を検討している企業、業界の課題に対しての解決策を見出そうとしている企業は、ぜひAIの導入を検討してみてはいかがでしょうか。