近年のAI技術の進化は目を見張るものがあります。産業の分野を問わず実用化の事例も増えてきました。企業を経営している方、業務を効率化したいと考えている方の中にはAIの導入を検討している方も多いでしょう。
そこで今回は分野、産業別にAIの実用化の事例について紹介します。AIを効果的に活用するためのイメージを膨らませることができると思いますので、ぜひ最後までご覧ください。
AIの基本情報について
AIには大きく分けて特化型AIと汎用型AIという概念があり、できることの範囲も異なります。まず始めにAIの基本情報について抑えておきましょう。
特化型AIと汎用性AI
AIには特化型AIと汎用型AIがあります。一般的に特化型AIとは一つの作業に特化してAIが業務をサポートまたは代行するAIで、将棋ロボットや囲碁ロボットが代表例です。
一方で汎用型AIとは人間のように複雑な情報を取捨選択して最適な判断を下すことができるAIで、ドラえもんや鉄腕アトムなどのアニメのキャラクターとして描かれることがあります。汎用型AIは現在も開発されておらず、特化型AIが実用化されているAIです。
AIができること
特化型AIができることは大きく分けて5つあります。
AIができること | 役割 |
画像認識 | あらかじめ画像データをAIに取り込ませ、カメラから取り込んだ情報を識別する技術 |
音声認識 | 音声をテキストデータにアウトプットする技術 |
自然言語処理 | 人間が発する言葉を認識して処理、分析する技術 |
検索・探索 | 一定の条件のもとに最適な結果を導き出す技術 |
予測分析 | 過去のデータを分析して将来起こり得る事象を予測する技術 |
現在のAI技術で可能となっているのは、上記の役割を単体または組み合わせて扱える作業のみです。これらの前提知識を頭に入れて具体例を確認していきましょう。
AIを活用するうえでのトレンド
現在のAIは自然言語処理技術の進歩とマルチモーダルAIの広がりが挙げられます。AIを活用する上で事前にしっかりとトレンドを掴んでおきましょう。
自然言語処理技術の進歩
自然言語処理とは人間が発する言葉やテキストを読み込んで、その返答をあたかも人間のものかのように再現する技術のことです。近年この分野のAI技術が進歩をとげています。例えばチャットボットの精度が上がり、顧客との連絡や問い合わせの業務に使われている事例が増えています。
マルチモーダルAIの広がり
AIの作業領域にはそれぞれメリットとデメリットがあり、現実に起こる複雑な事象に対応できないことがあります。そこでAIができる5つのことをそれぞれ組み合わせて、分析するのです。このようなことができる人工知能のことをマルチモーダルAIと言います。
例えば防犯カメラの性能を高めるために音声認識と画像認識の技術を組み合わせて、騒音トラブルのもととなる音量の会話であるかを判断することが可能です。AIの進歩とマルチモーダルAIの広がりによって精度の高いAIの活用事例が出てきています。
【分野・業種別】AIの活用事例10選
AIは製造業や物流業の他に、第1次産業から第3次産業まで幅広く活用されています。ここからは10つの産業ごとに実際の活用事例について紹介させていただきます。
①製造業:異物混入のチェック
製造業ではAIを使った在庫管理の最適化、検査や検品の機械化が代表例です。例えばドイツの自動車メーカーアウディでは、プレス工場でクラックの検査をAIによって自動化しています。画像認識技術を使って人件費の削減と品質管理の正確性の向上に成功しています。
②農業:収穫時期の事前予測
農業は天候によって収穫物の結果が変わるため、人間の手を使っても大変な分野です。農業機械の国内最大手クボタはスマート農業システム「KSAS(KUBOTA Smart Agri System)」を開発しました。農業ロボット、ICT、地理情報システムを使って農業を可視化することで、効率的かつ安定的な収穫物の確保に貢献しています。
③漁業:データ分析による漁獲高の安定化
漁業は潮の流れや気象条件によって大きく漁獲高が変動します。長年地元の漁師によって経験や勘を頼りに漁に出ていました。それらの情報をAIにデータとして取り込むことでピンポイントで魚の群れを見つけ当てることができます。
④金融業:オペレーター業務のAI化
金融業では銀行窓口やほけんの窓口など、現場でのオペレートは人間が行っています。チャットボットの技術が向上することで窓口業務に必要な人件費を削減することができます。さらにAI技術を使ったオンラインバンキングが発達することで、金融業に人件費が掛からない未来も見えてくるかもしれません。
⑤不動産業:データに基づいた物件の査定
不動産業はデータに基づいた物件の査定をAIが行うという事例が増えてきています。東急リバブルでは企業ホームページからAIによるスピード査定が受けられます。人件費の削減と査定の正確性が高まるというメリットがあります。
⑥小売・卸売業:商品発注システムの導入
商品が短期間で入れ替わる小売・卸売業では的確な商品の発注が高い売り上げやロスカットにつながります。イトーヨーカ堂では2020年9月からAIによる商品発注システムを導入しています。最適な価格情報や商品の陳列数を気象や曜日などの過去データから算出します。
参考:日本経済新聞「ヨーカ堂、AIで商品発注」
⑦医療:画像認識技術を使ったAIによる診断
画像認識技術を使って診断医の負担を軽減する事ができます。現在の医療業界ではCTスキャンによる画像診断が進んでいますが、診断を行う専門医の数は不足しています。そこでAIによる診断医の導入により医者への負担を軽減するだけでなく、診断制度の向上も期待できるでしょう。
参考:日本経済新聞「キヤノン、CT・MRIでAI活用」
⑧建設業:無人施工システム
建設業では作業現場の危険性が問題視されており、AIによって自動化されたトラックやブルドーザーの導入が進められています。青木あすなろ建設では災害復興や鉱山や採石事業において、すべてAIによって自動化されている大型重機が土木工事を行っています。
⑨物流業:デジタルトランスフォーメーション
物流業では全体網を効率化する動きが進められています。DX(デジタルトランスフォーメーション)とは企業がAIやIoT、ビックデータを駆使して業務の効率化を図ることを言います。NECではAIやIoTを活かしてサプライチェーン、リソース、ルートの最適化を達成しています。
⑩飲食業:フードロス削減システム
飲食業は仕入れや仕込みの段階で事前に来客を予測することが重要です。築地本願寺の境内にあるカフェではAIによって電話予約の情報から混雑予測を行っています。これによりスタッフのシフトを効率的に組むことができ、同時にフードロスを削減することに成功しました。
参考:築地本願寺「築地本願寺カフェTsumugi 朝食メニューの時間帯での予約システム導入について」
AIを活用するメリット、将来の展望
AIを活用することで人材不足の解消、業務の効率化、ヒューマンエラーの抑止、コストカットにつながることがあります。ここからはそれぞれのメリットや将来の展望について解説します。
人材不足の解消につながる
物流業や医療の分野では人材不足に苦しむ現場があります。そこでAIによって自動化、効率化することで現場の人間の負担を緩和することができます。新規採用に苦戦している現場、専門性が高くて急な需要の拡大に対応できない現場では、最適な解決策になることが期待できます。
業務の効率化を図ることができる
業務の効率化を図ることで生産性の向上が期待できます。人間の勘や経験に頼っていた漁業や農産業においては収穫物の安定化を実現することによって、売り上げ予測や年間計画も立てやすくなるでしょう。AIを使って業務を効率化するメリットは数知れません。
ヒューマンエラーの抑止につながる
建設業などの現場ではヒューマンエラーによって事故やトラブルが発生しています。AIを導入することで正確性が高まるだけでなく安全性の向上、高い品質レベルでの管理が可能となります。
コストカットできる
AIやロボットに作業を代行させることでコストカットにつながることがあります。例えば人間を雇った場合にかかる社会保険料や給与をAI導入によって大幅にカットすることができるでしょう。財務健全化にも一役買うこと間違いありません。
AIの活用事例まとめ
近年のAI技術の進化は目を見張るものがあります。産業の分野を問わず実用化の事例も増えてきました。人間の代行業務を行う第3次産業でのサポートのみならず、人間の勘や経験が最重要とされてきた第1次産業でも実用化の事例はあります。
今後もマルチモーダルAIの進展によってAIの精度は上がることが期待されています。企業を経営している方、業務を効率化したいと考えている方の中にはAIの導入を検討してみてはいかがでしょうか。